(ユリウスend捏造ルドユリ)





兄さん。兄さん。兄さん。
足が勝手に前へ前へと歩みだす。それは、ジュード達が兄さんと話をつけてくると言ってから数刻が経った頃だった。熱くなった頭が漸く冷静になった頃、改めて考え直してみるとどうしても色々辻褄があわないことが多かったのだ。どうして俺か兄さんの命が必要な今
、ジュード達は俺を兄さんと会わそうとはしないのか。ジュード達は兄さんと話をつけてくると言って、兄さんのいる港へとすでに行ってしまってここにはいない。勿論俺を置いて、だ。ーーーーーだけれど俺が引っ掛かっていることはそれだけではないのだ。何よりジュードが何気なく放った言葉が、俺に一番蟠りを残していた。恐らくジュードの良心から出た言葉であることは明白ではあったけど、それでもどこか違和感がある言葉ーーーーー




(後は僕たちに任せて)





ジュードは、どういう意味でこの言葉を放ったのだろう。何を、彼らに任せろと言うのだろうか。俺の覚悟さえあれば全てすむ話であるのに……いや、覚悟なんて、俺にはすでにいらなかった。俺の覚悟なんて兄さんに比べたらどうでも良かったのだ。兄さんと世界。天秤にかける必要もない。世界のために兄さんか俺が死ななきゃいけないというのならーーーーー答えはすでに出ていた。尋ねられる必要もなかった。兄さんだけは死なせない。ずっと俺を育ててくれた、優しい兄さんなんだ。ずっと俺の傍にいてくれた、大事な兄さんなんだ。俺のことをいつも一番に考えてくれていた……俺の、俺だけの兄さんなんだ。そんな兄さんを生かすためだというのなら、俺の命なんてどうなってもいい。どうなってもいいんだ。




ーーーーーそれなのに、ジュードはさっき何て言った?




(後は僕たちに任せて、ルドガーは部屋で待っていて)




嫌な予感がした。違う。……大丈夫。ジュードたちは俺の仲間だ。兄さんに何かするわけ、ないじゃないか。大丈夫。大丈夫だから。仲間なんだから……当たり前だ。ジュード達が、仲間が、俺に何も言わずに兄さんを……めるわけ……ない。ない。そう。そうに決まってる。俺は何を心配しているんだ。仲間を信じないで、どうするんだ。信じてる。信じているんだ……信じているのに!!



(……どうしてこんなに怖いんだっ……!!)



腕が、足が、頭が、全身が。
俺の身体全てがなにかを訴えかけてくる。何か、なんて、その正体は分からない。分からない。分からないのに、なぜだかとても怖かった。何かとても大切なものが欠けてしまう感覚。胸が、とても痛かった。



「………ぁ」



マクスバードの港。そこにジュード達は確かにいた。それはいい。しかし、問題はそこではないのだ。ジュード達の後ろ姿を遠目に確認し、彼等の手に収まっているものに疑問を持つ。どうして、町の中なのに彼等は武器を持っているのか。魔物でも現れたのか。それなら町の人が騒いでないのはおかしい。それに鼻につく鉄の錆びた……?そんな疑問を持ちながらジュード達のもとに近づいていくと視界に赤黒いものがみえた。赤黒い、液体。ジュードが俺が近くにいることに気づいたのか、俺を引き留めようとしたけれどーーーーーもう遅かった。



「………え?」




だって、そこに。そこに、い(あっ)たのは





「……にい、さん?」





兄さん。
真っ赤な赤色が視覚に訴え、鉄の臭いが鼻孔を刺激する。頭の中がぐるぐると回って、めまいがした。気持ちが悪い。吐き気がする。そこにいたのは確かに兄さんだ。だけど兄さんじゃない。兄さん。兄さんはーーーー





どうして首と胴体が繋がってないんだ?




「にい、さ」
「……ルドガー」
「……」
「黙っていて……ごめん。ユリウスさんは僕たちに、君とは違う手紙を渡していたんだ。君が覚悟が決まらない場合は、僕たちに……」
「……」
「……ルドガー……」



兄さんに恐る恐る近寄る。兄さん。兄さん。どうしてこんな姿に?誰が兄さんにこんな酷いことを。兄さん。兄、さん。兄ささん。ごめん。ごめん兄さん。兄さん、俺、俺ね。仲間だと思ってたんだ、彼らのこと。信じてた。最後まで、信じてたんだ。兄さんを殺すはずないって、そう信じてたんだよ。兄さんには何もしないって、そう思って、そう願って、そう信じてた。




(……でも、違った)


理想と現実はあくまで理想と現実でしかなかった。何もかも違った。違ったんだ。仲間だと思ってたのは俺だけだったんだ。だって兄さんを殺したんだ。俺の唯一の肉親を殺したんだ。自分達の使命のためなら手段を選ばない、彼らはそういうやつらだったんだ。ねぇ。兄さん。兄さんは、俺が、俺がーーーーー



「ルドガー……聞いて。ユリウスさんは……」
「煩い」
「……え…?」
「煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い」
「……ルドガー……っ!!落ち着いて少し話を……」
「煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い」
「………っお前の兄貴が望んだことなんだぞ!兄貴の気持ちも少しは考えてや……」
「……黙れ!!」
「………っ!?」



……お前らに何が分かる?会って間もない兄さんの気持ちが、なぜ分かる?話したこともない。ましてやほとんど会ったことのない兄さんのことが…………分かるはず、ないじゃないかーーーーー自分から死にたい人間なんて、いるはずない。俺が。俺が死ぬはずだったんだ。俺が。俺が兄さんの代わりに俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺がーーーーーお前らが、お前らが兄さんを。俺の……兄さんを……



「……てやる」
「……ぇ?」


ジュードの大きな瞳が疑問で染まる。でももう遅い。遅すぎた。その質問には答えてあげられそうにないよジュード。ジュードの身体が地上から空に浮いてそのまま口から血を吐いて倒れた。腹に刺さっているのは、兄さんからもらった大事な剣。あはは、兄さんとお揃いの色に染まったよ。俺も全部赤色に染まれば兄さんとお揃いになれるかな。



「……ジュード!!!」



ミラが叫んだ。兄さんを殺した報いを受けてもらっただけなのに何故泣くんだ?あぁ……そういえばミラは兄さんだけじゃなくて「ミラ」も殺したんだよな。俺とエルの知っているミラじゃない「ミラ」を。


剣に刺さっていたジュードをミラに投げつけその隙をついてミラの背後に回る。ミラはジュード、ジュード、とその間も切なく泣いていた。その姿は大精霊マクスウェル様とは思えないほど幼く、それでいて儚く、あまりにも人間の姿をしていた。もう戻らないのに。泣いたところで、喚いたところで、懇願したところで。もう、何もかも戻らないのだ。ジュードにすがり付くミラが「ミラ」と重なって……すぐに消えた。俺もそっちにいけばミラや……兄さんに会えるのかな?自分のではない血だらけの中で、何となくそんなことを思って目を閉じる。覚悟なんて、きっと最初から出来ていたんだ。ただ、気づくのがあまりに遅すぎた。それだけの話。あぁ、そうだよーーーーー初めからこうすれば良かったんだ。俺はそっと剣を自分の方に向けた。





「兄さん。またすぐに会えるからね。すぐに、追い付いてみせるから……だから……」




次こそは幸せにーーーーー





(ルドガー)



「にい……さ……」



ルドガーは消えいく視界の中で、兄が優しく、いつもの音色で彼の名前を呼んだのを確かに聞いた。兄さん。兄さん。優しい兄さん。俺だけの、大切な兄さん。幼子のように兄さん、兄さんとただただ哭いた。兄さん。兄さん。兄さん。兄さん好き。大好き。愛してるんだ。俺には兄さんさえいればいい。だから………だから、これだけ言わせて








「兄さんの弟で、本当に良かった」







さよならまたらいせ



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -